文化財の修復とは?

日本絵画修復の現場

 日本の絵画などは、修復を繰り返すことによって守られ、現在に伝承されてきた文化財です。その技術は、非常に繊細かつ高度な熟練を要するものです。「文化財赤十字」の事業も、そうした高度な熟練の技を持つ技術者、工房の存在なしには成しえません。今回は、そうした工房の一つ、装師連盟に加盟している半田九清堂(東京)にお邪魔し、お話をうかがいました。
 半田九清堂は、紙でできたもの、繊維でできたものの修復の専門家として、1967年以来、海外・国内を問わず、数多くの国宝、重要文化財を含む多くの古美術の修復に携わってきました。「文化財赤十字」の仕事としても、当財団から依頼した地蔵菩薩来迎図(室町時代)、長恨歌図巻(狩野山雪筆/江戸時代)、十二類歌合絵巻(いずれもチェスター・ビーティ図書館所蔵)など数々の実績を残しています。
 「修復の専門家になるには、10年〜15年以上かかります。修復や染色などの技術もさることながら、預かり物を扱う心構え、また表具を新調する際の時代考証能力や、作品を生かす控えめさと大胆な発想力のバランスが必要です」
 「文化財の修復では、補強し、汚れを取り、表具を整えますが、欠損部分の修復に関しては、消えてしまった部分を書き足すといったことは許されません。補絹、地色合わせ、補強のための縫製など、最低限の補修作業だけが許されるのです。一人の師匠が一人の弟子を世に送り出せれば御の字、という意見もあるほどです」
 それでは、修復の工程のいくつかを紹介しましょう。

劣化絹を欠損した形に切り取り補う補絹の作業

折れたり、切れたりしている箇所に、補強のために紙の鎹(かすがい)を入れている。折れ伏せという

数多くの布のストック、染色なども重要だ

作業場の風景

室町時代の大名絵。欠損部分の地色合わせを行っているところ

 

絵のつなぎ目で分離する


時代色に染めた薄美濃紙で、肌裏打ちをしているところ。裏打ちとは、本紙や絹を保護するため、その裏面に糊で貼り付けられている和紙のこと。本紙に近い順に、肌裏打ち、増裏打ち、総裏打ちという

袈裟の修繕。乱れを揃え、染めた細い糸で繕う

桃山時代の風俗屏風。以前の修理の際の裏打ちを剥がして、欠損分を繕っているところ

文書(重要文化財)の修理。紙の繊維をほぐして、紙漉きの原理で虫食いの部分を充填し、実用に耐えるようにする。写真は、虫の糞を丁寧に除去しているところ

▼十二類歌合絵巻(3巻)(チェスター・ビーティ図書館所蔵)の修復前と後の比較


(修復前)

(修復後)
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